地域を災害から守る、熊野の水と森について学ぶ
2013年12月9日、三重県熊野市の市立五郷中学校・五郷小学校にて、「熊野の水と森を学ぶ」ことをテーマにしたESD環境学習プログラムが実施されました。同授業は三重県熊野市の教育委員会が、同市の小中学校において、地域の自然やその恵みについての理解を深め、足元から地球環境問題を考え、行動する子どもたちを育成するESD授業を推進することを目指し、一般社団法人グリーンエデュケーションに委託し作成されたプログラムです。授業の実施にあたり、同市を創業の地とするサラヤ株式会社が協賛し、同社のCSR推進部社員がファシリテーターとなり、教師役を務めました。
(TOPの写真は、「五郷小学校全校生徒で学ぶ教室」)
暮らしから環境問題を考える
授業のポイントは、熊野市の自然環境を学ぶことを通じて、それが自分たちの暮らしとどのように関連しているのか、理解を深め、郷土への関心を高めることです。そのため先ず、日常生活に欠かせない「水」を入り口に、私たちが普段どれくらい水を使用しているか、また、その水はどのように作られているかについて、バケツやスポイトなども活用しながら、クイズ方式で子どもたちに尋ねました。「私たちにとって大切な水。その水を汚さず大事に使うことを私たちも大切にしています」。講師役の中野綾子さんは、自社の取り組みと関連づけて、子どもたちと同じ目線に立って語りかけます。河川や海など、水辺が豊富な熊野市。その豊かな水を支えているのは、実は森林だった・・。映像1は、大又川や新鹿海岸、七里御浜、といった地域の水辺を紹介しながら、地上から蒸発した水が雨となり、地面に吸収され、川や海へと流れ込む「循環」の様子を、分かりやすいアニメーションで紹介します。
いのちをつなぐ、水と森
熊野市の森林面積は、市総面積の約87%。これは全国平均約67%を大きく上回り、熊野市がいかに森の多い土地かを示しています。そんな森林は今、世界で一秒にサッカー場1面分ほどのスピードで失われていると言われています。森林がなくなると、一体どんな影響が出るのでしょうか。映像2では森の機能を学びながら、私たちやいきものたちの生活が森林によって支えられていることを学びました。熊野市の子どもたちが、森林の役割をリアルに体感したのが、2011年9月に熊野市を襲った台風12号でした。土砂崩れや河川の氾濫、道路や橋の崩壊など、大きな被害をもたらしたこの台風。五郷小学校と中学校の間を流れる大又川を渡す橋も崩壊し、子どもたちもその被害をとても強く実感しています。映像3では、大又川を守る活動をしている橋本さんが、台風12号による自然災害と森林の関わりについて子どもたちに語りかけ、これを受けて、保水機能の高い森(元気な森)つくることの大切さについてみんなで意見を交わしました。間伐を行い、太陽の光が森林に入るような環境整備を行うこと。森林が災害から自分たちの暮らしを守ってくれるとあり、子どもたちも真剣に、森林の役割について考えたようです。
森林と暮らす営み:林業の今
最後に、地元の林業家、尾中さんのインタビュー映像を通じて、かつて盛んだった林業が今は衰退してしまっていること、豊かな熊野の森を育てるためにも、森林の持つ機能についてよく理解し、森林を使った仕事・林業の営みを守ることの大切さについて学習しました。子どもたちの中には、林業に従事する家の子や、親戚に林業関係者がいる子もいましたが、尾中さんのような昔ながらの林業家の話を聞いたことがある子たちはほとんどおらず、地域で活動する人たちのことを知り、森林をより身近に感じることの大切さについて、先生方も実感されたようでした。
アレンジ自在に 日常の学びと関連づけて、この授業のために作成された映像は4本。五郷中学校・小学校の両校とも、それぞれ全校生徒を一同に集めての、学年差を超えての授業となりました。保有する知識も、経験もバラバラの子どもたち。それぞれに得たものには差があることと思われますが、森林や自分たちの暮らす地域への関心を高めることにつながったのではないかと、両校の先生方から評価をいただきました。今回の授業は1時限で実施されましたが、体験学習やワークショップとの組み合わせなど、子どもたちの学習状況や日常の授業と結びつけてさまざまなアレンジが可能となっています。この日の授業には、熊野市の教育委員会や教職員方が多数見学に訪れました。各学校でどのような授業が展開されるのか、今後の発展が楽しみです。