身近な里山、どうやって守るのか?
富山県富山市の古沢小学校は、今年創立140周年を迎えた歴史ある学校です。持続可能な社会に貢献する人材づくりの取り組みが高く評価され、今年、ユネスコスクールに認定されました。
今回のESD推進事業では、4年生の担任、酒井祥子先生が総合学習のために作成した「ぼくらの里山」という総合学習のプログラムをもとに、4年生14人の子どもたちが、教室での授業や体験学習、映像を使った授業を通じて、身近な自然である呉羽山の里山や、里山を守るために活動している人たちについて学びを深めてゆきました。 この単元を始めるにあたり、酒井先生が子どもたちに呉羽山の自然について感じることを尋ねたところ「興味がない」「知らない」という答えが少なくなかったそうです。そこで先生は、呉羽山にある「ファミリーパーク」で活動する、生きものや自然に詳しい担当スタッフの高橋さんにお願いし、子どもたちに呉羽山を案内してもらいました。
タヌキなどの動物のフン、ドングリなどの木の実、動物が木をかじったあと・・・。たくさんの生きものたちの存在に触れて、子どもたちの中には、呉羽山への関心や、呉羽山を好きに思う気持ちが大きくなっていったそうです。
映像教材を使った1回目の授業は、こういった体験学習を受けて、10月28日に実施されました。この授業のためにオリジナルに作成された映像にはガイド役として呉羽山の「山の神さま」が登場し、子どもたちが訪れた呉羽の里山について呉羽山の風景映像と共に説明し「みんなはどんな生きものたちと出会い、どんな発見をしたか、ワシに教えてくれんか?」と呼びかけました。そして、呉羽に住み、里山をずっと守り続けている村藤おじいちゃんの話と共に、昔は呉羽山の大部分が里山で、大人も子どもも、里山から果物などの食べ物や薪など、たくさんの恵みを受けとって暮らしていたことを紹介しました。
「里山を守るためには、手を入れ、整備することが必要・・・」。授業からの学びを受け、生徒たちは再び、呉羽山に足を運び、体験学習を行ないます。今度は、呉羽山の里山を守る活動をしている、きんたろう倶楽部の松田さん(事務局長)に教えられ、竹の間伐体験をしました。体験学習は2回に渡り行なわれ、1回目はグループで、2回目はひとり1本ずつ、竹を切る作業を行ないました。 この2回の体験を通じて、子どもたちからは、竹を切る作業の大変さを学び、里山を守ることに少しでも役に立てたことを嬉しく感じたといった、感想があったそうです。
このようなプロセスを経て開催された、11月25日の授業は、映像教材を使った2回目の授業であると共に、この単元の締めくくりとして、位置づけられました。
担任の酒井先生は、これまでの学びの過程を振り返るためのフリップを用意し、それを教室の壁に貼ることで、子どもたちが、学んだことを振り返れるよう準備をしました。
先ず始めに、子どもたちに先日の竹切り体験のことを少し思い出してもらった後、その竹切りの活動を毎週行い、呉羽山の里山を大切に守ろうと奮闘している、きんたろう倶楽部の大人の人たちの活動の様子を映像で紹介しました。
「映像を見て、どう思った?」 先生の問いに、子どもたちは「楽しそうだった」「笑顔でやっていた」「大事な自分の里山を守りたいと言っとった・・・」など感じたことを発表します。「自分たちは一人で一本着るのにもすごく疲れてしまったけれど、きんたろう倶楽部の人たちはずっと笑顔で、楽しそうだった」。自分たちも竹切りを体験し、その大変さを実感したからこそ、きんたろう倶楽部の人たちの言葉から受け取るものがとても大きかったようです。
(子どもたちの発言を書きとめ、そのつながりを図で示す酒井先生の授業。体験学習の記録写真や、呉羽の地域の拡大写真など、酒井先生の授業には、子どもたちの学びを豊かにするための工夫がたくさんちりばめられている)
そして、今度は、呉羽山の里山をずっと昔から大切に守り続けている村藤おじいちゃんの話を、再び映像で視聴しました。「85歳の村藤おじいちゃんは、15-6年間も、里山のパトロールをしているって言っとった」「村藤おじいちゃん、テレビにも出ていたよ」。
先生は、用意したフリップチャートを使いながら、これまで勉強してきたことをひとつずつ振り返り、学習を通じて、子どもたちの気持ちが変わってきたことを、子どもたちと一緒に振り返っていきました。その中には、最初の授業から、現在にいたるまで、子どもたちの感想を毎回記録していったものがあり、始めは「興味がない」と言っていた子どもたちの心にも「里山が好きになった」「もっともっと好きになった」「大切にしたい」など、変化が見られたことが人目で分かります。
これまでの活動の振り返りの後は、考える時間です。子どもたちは先生の用意したワークシートに、これまでの授業を通じて感じたことを黙々と書き綴り、その後、みんなで意見を発表し合いました。子どもたちからは、「呉羽山に行ったお陰で興味が出てきた。行ってよかった」「(ファミリーパークの)高橋さんがいっぱい植物のことを教えてくれたし、(きんたろう倶楽部の)松田さんが環境をよくするために竹切りや草むしりをやっとることを知って、呉羽山が大事だなと思った」「また呉羽山に行きたくなった」といった声が上がりました。
「実は、里山のような場所は、呉羽山だけではなくて、世界のあちこちにあるんだよ」。最後に先生は、日本や世界各地の美しい里山風景をスライドで紹介しました。五箇山、能登、それからルーマニア、ネパール、フィリピンやインドネシアに至るまで。「きっと他にも、自然と人間が仲良く暮らしている里山っていうのが、あるのかもしれないね・・・」。子どもたちの関心がこれからどう広がっていくのか。見ている側も思わず、わくわくした気持ちになった授業でした。
地域の里山や、里山を守る活動をしている人たちを紹介したこの映像教材は、今度、古沢小学校の他の子どもたちにも活用されてゆく予定です。