未来につなげる世界遺産の熊野那智ふるさと学習
昨年、世界遺産登録10周年を迎えた「紀伊山地の霊場と参詣道」。
その中で、熊野那智大社、那智の滝、青岸渡寺、大門坂他、多くの世界遺産を有する和歌山県那智勝浦町は、国内外から多くの観光客が訪れる歴史ある信仰の町です。また古くからマグロ漁も盛んで延縄漁法による生鮮マグロの水揚げは日本一を誇っています。
平安時代末期、「蟻の熊野詣」とも称されるほどにぎわいをみせたこの町も、現在では他の過疎地域同様、人口流出や第一次産業の衰退、高齢化が進んでいる地域であります。
現在、過疎地域の多くの自治体では、地域存続、再生のため、あらゆる方向から様々な計画を策定し取り組んでいます。ここ那智勝浦町では、町の未来を担う子ども達に、持続可能なまちづくりを見据えた学習プログラムを行うことでコミュニケーション力を高め、交流を増やし、地域の過疎化対策や衰退する第一次産業への就労にもつながると考え、世界遺産を通じ、地域の伝承や自然環境、文化を知り、資源価値を可視化し、地域の魅力の再発見や誇り、郷土愛を育み、子どもたちが町の歴史や伝統を後世に伝承していく立役者となり、行動していける「世界遺産から町の未来を繋げていくモデル」として、那智勝浦町教育委員会、市野々小学校、グリーンエデュケーション協働で、この活動を進めることになりました。
ここでは、熊野三山で唯一、那智勝浦町に現存している、平安時代の参詣の様子が描かれた「那智参詣曼荼羅」を元に活動を進めました。
年々、この町ではこの曼荼羅が一体どういったもので何を表しているのかを伝承していくことができる人も少なくなってきています。
この歴史ある「那智参詣曼荼羅」を読み解くことで、「蟻の熊野詣」とにぎわいをみせた過去と現在の町の様子を重ね合わせ、町の世界遺産に興味を持ち、歴史を知り、たくさんの魅力を再発見していくことになりました。
まずは、自分達での聞き調べ学習に加え、地元の有識者や語り部さんへの聞き取り学習も何度も繰り返し、身近な場所の今まで知ることのなかった様々な情報を知り得ることができました。
次に、魅力の再発見でこの学習を終わりにするのではなく、この学び、知り得た情報を、観光協会主催のイベントにて観光客に伝え、さらに家族、地域はもちろん、世界へ発信することをめざし、子どもたちが語り部となり、自らの言葉で伝えた「おもてなし観光映像」を制作しました。
この映像は、町のホームページや、町の様々な場所で流されるだけでなく、AR(拡張現実)という最新技術を使って、町のホテルや観光施設等にある「那智参詣曼荼羅」のレプリカ、また町の観光パンフレット等にタグ付けすることにより、那智勝浦町、世界遺産に関心を持つ多くの方が、スマートフォンをかざすだけでいつでもご覧いただくこともできるような仕組みになっています。
~子ども達が、先頭に立ってこの町の未来を担っていく~
全活動終了後、取り組んできた子ども達のアンケートでは、全員が、「勉強になった」と回答し、そして多くの子ども達が「この町のことがさらに好きになった」「今後もこの町に残る世界遺産を大切にし、多くの人に魅力を伝え、語り繋いでいきたい」と、心強い言葉を伝えてくれました。
今回の活動で、子ども達の意識が動いただけではなく、この映像をみたその地域の人々の間にも「地域のことをもっと知りたい」「地域の魅力、価値を見つめ直したい」「もっと深く関わっていきたい」などの想いが広がり、さらには学校と地域の繋がりが深まって、地域一体となって町に残る世界遺産を学び、そして持続可能な地域づくり、さらには未来につなげようという意識に繋がる活動になりました。
今後も市野々小学校では、形を変えながら世界遺産ふるさと学習を引き継ぎ、続けて行く予定です。今後の活動も大変楽しみです。
グリーンエデュケーションでは、今後世界遺産に登録されている他地域にもこのような取組みをすすめ、ブロードバンド環境において対象地域同士をつなぎ、全国的な活動として拡げていきたいと考えています。
今回、子ども達が制作した4本の映像は、下記よりご覧いただくことができます。ぜひ一度、子ども達が製作した映像をご覧ください。そして、世界遺産の町、那智勝浦町にも足をお運びください。
※この活動は、平成26年度の地球環境基金の助成を受けています。