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授業レポート
三重県名張市

天然記念物・ギフチョウが暮らしやすいのはどんな環境だろう?

  • 2014.03

三重県名張市にある薦原地区は、全国でも数少ない、天然記念物ギフチョウの生息地として知られています。薦原小学校では、4年生になると全員が、ギフチョウのことを地域で活動する人たちとの交流を交えて学んでいるそうです。今回のESD実践授業では、「ギフチョウから考える薦原の自然と未来」と題して、これまでの学習を振り返り、ギフチョウを守るために大切なことは何か、自分たちの暮らす地域での暮らしと関連づけながら考える授業を、総合学習の2時限を使って実施しました。

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まず最初に、「春の女神」として知られるギフチョウが子どもたちに語りかける映像を通じて、ギフチョウの視点から、ギフチョウの身体の特徴や生きていくために必要なものについて振り返りました。ギフチョウの舞う春先から、「ちょうちょコモコ探偵団(TKT)」を結成し、学校や近くの里山に出かけてギフチョウを観察して、ギフチョウについてたくさん学んできた子どもたち。「私は他の蝶々とどんなところが違うの?」「私が暮らすために必要なものは何?」というギフチョウの問いかけに、「羽を広げて休むところ」「カンアオイが必要ということ」など、次々に挙手をして答えてゆきます。

これに対して、担任の先生もさらに深く、子どもたちに問いを投げかけていきます。「みんな、よく覚えているね。でも、ギフチョウが薦原にいるのは、どうしてだろう?」「自然が豊かって、どういうことを言うの?」「ギフチョウは絶滅するかもしれないって言われているのは、どうしてだと思う?」「もし、ギフチョウにとって大切なカンアオイがなくなったら、どうなる?」・・・先生の鋭い発問を子どもたちも真剣に受け止め、自分の言葉で考えを発表する。授業の間は、このようなとても濃厚なやりとりが、幾度となく展開しました。

(コモコモふれあい祭りでのギフチョウについての学習発表の展示)

(コモコモふれあい祭りでのギフチョウについての学習発表の展示)

(年間を通じた授業で、たくさんのことを学んできた)

(年間を通じた授業で、たくさんのことを学んできた)

(地域の写真を見せながら、子どもたちに鋭い問いを投げかける、担任の松田淑子先生)

(地域の写真を見せながら、子どもたちに鋭い問いを投げかける、担任の松田淑子先生)

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(ギフチョウの特徴について振り返る映像教材)

(ギフチョウの特徴について振り返る映像教材)

ギフチョウの暮らしやすい環境について皆で考えた後、先生は、自然豊かな薦原地区にも、ギフチョウたちが暮らしやすい自然ばかりがあるわけではないと、映像教材を使って、子どもたちに問いかけます。それは、ギフチョウの保護区の隣にも大きな工場などがあり、昔と比べて地域には車や建物も増えていて、豊かな自然ばかりがあるわけではないということ。「みんなは、こういうことについてはどう思う?」。先生の問いかけに対して、子どもからは「でも、工場や車のようなものがないと、今度は人間が暮らしていけなくなってしまう・・・」という、本質をついた言葉が出てきました。「そうだね、では、人気もギフチョウも両方が暮らしていくためには、どうすればいいんだろう?両方が暮らせているということは、薦原はちょうどいい町だということ?」。

この問いを受けて、後半の授業では、ギフチョウネットワークの加納さんを交えて、ギフチョウの暮らす地域の特徴について学びを深めてゆきました。子どもたちは、授業の時間に、ギフチョウについて教えにきてくれる加納さんたちしか知りません。それ以外の時間にも、ギフチョウばかりではなく地域の自然やいきものたちを観察したり、ギフチョウの暮らしやすいように、カンアオイが育ちやすい環境を整える活動をしている様子をみて、子どもたちは、ギフチョウを守るという気持ちがどのような活動や行動につながっているのか、より広い視点で考えるきっかけを得たようです。

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(地域でギフチョウを守る活動をしている、伊賀ふるさとギフチョウネットワークの人たちの活動を紹介する映像教材)

(地域でギフチョウを守る活動をしている、伊賀ふるさとギフチョウネットワークの人たちの活動を紹介する映像教材)

印象的だったのは、映像教材の中で、加納さんたちが、地域のお年寄りたちと言葉を交わすシーンでした。「加納さんたちがいろいろ教えてくれたお陰でギフチョウのいる貴重な自然を守っていくことを、自分たちも学ぶことができた」と感謝の言葉を語るおじいちゃん。けれども加納さんは「この地域にギフチョウが暮らせるのは、この地域の人たちが、自然と共生する暮らしをずっと営んできたからこそのこと。この地域で農業をしながら自然と共に暮らしてきたおじいちゃんたちがいなかったら、ここにギフチョウはいなかったんだよ」と語ります。それを聞いて、子どもたちは、びっくり。映像に自分のおじいちゃんが映っていた子どもは「僕のおじいちゃんが、そうなんですか・・・」と、とても驚き、「今度、おじいちゃんに、いろいろ話を聞いてみよう」と、嬉しそうに話していました。

(加納さんたちへの感謝の言葉を伝える地域の人たち。けれども、地域の人たちの自然と共生した暮らしがあるからこそ、ここにギフチョウがいる)

(加納さんたちへの感謝の言葉を伝える地域の人たち。けれども、地域の人たちの自然と共生した暮らしがあるからこそ、ここにギフチョウがいる)

(積極的に手を挙げて意見を発表する子どもたち)

(積極的に手を挙げて意見を発表する子どもたち)

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映像を見て、加納さんたちの話を聞いたあとは、グループに分かれて、ギフチョウの暮らす地域の自然を守るためにどんなことができるのかを話し合い、意見を発表しました。「ギフチョウを捕まえようとしている人がいたら注意する」「ゴミを捨てたりして自然環境を壊さないようにする」・・・。中には即興演劇で意見を発表したグループもあり、普段からクリエイティブに、自由な発想で意見を発表する学習環境があることを感じさせる、印象的なシーンでした。

最後に、授業を見守っていたギフチョウネットワークの皆さんから、子どもたちへのメッセージがありました。ギフチョウを大切にする気持ち。その向こう側にある、地域を想う気持ちや、この素晴らしい土地に暮らすことへの感謝の気持ちに触れて、子どもたちも、温かく大きなものを、心に受けとめたようでした。

(子どもたちにメッセージを伝えるギフチョウネットワークの人たち)

(子どもたちにメッセージを伝えるギフチョウネットワークの人たち)


この授業の様子は、地元のメディアからも取材され、地域の人たちにも伝えられました。この地域ならではの学びは、今後もこの学校や地域に継承されてゆくことでしょう。ギフチョウの舞う春の訪れを楽しみにする地域の人たちの心が伝わってくるような、とても温かな授業でした。