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授業レポート
和歌山県田辺市

ナショナル・トラスト発祥の地、天神崎とはどのような場所か?

  • 2012.11

■自然豊かな和歌山県田辺市

南方熊楠を輩出し、熊野古道などでも知られる紀州和歌山は、遥か昔より人と自然の共生してきた美しい歴史を持つ土地です。海と山、そして日照時間のとても長い太陽の恵み豊かなこの土地には、さまざまな自然の恵みがあります。なかでも天神崎は、38年も前から地域の人たちがお金を出し合って自然を大切にしようと取り組んで来たことから現在も変わらぬ美しさをとどめている、地域の人たちにとって大切な場所です。そこで今回のプログラムでは、子どもたちにとっても馴染みの深い天神崎を題材に、ナショナル・トラスト運動について、そしてそれにとどまらず、何故自然を大切にすることが必要なのかということを「生物多様性(いのちのつながり)」の視点から学んでいきました。

 

■先生は「ファシリテーター」として授業を進行

私たちが教育プログラムを実施する上で大切にしているのは「双方向に学び合う場をつくること」。先生は、知識を一方的に伝えるのではなく、子どもたちの参加を促し、子どもたち自らが答えをみつけることをサポートする「ファシリテーター」としての役割を果たします。今回の授業ではナショナル・トラスト運動を支援している三井住友信託銀行の石坂彩さんが先生の役割を務めました。「私は普段横浜市というところで暮らしていますが、みんなと一緒に天神崎を歩いて本当にとても感動しました。和歌山の人たちが大切に守ってきた豊かな自然について、みんなと一緒に勉強したいと思います」。先生の挨拶で授業がスタートします。

(6つの映像を使って授業を行います)

(6つの映像を使って授業を行います)

 

■気づきと発見:身近な自然から感じ取る

「みんなの暮らしている和歌山県の美味しいものは何ですか?」。授業は先生から子どもたちへの質問から始まりました。「梅!」「はちみつ!」「みかん!」。誰にでも意見が言いやすい簡単な質問に、子どもたちは次々に手を挙げて元気いっぱいに答えます。「たくさんあるんだね。じゃあ、はちみつはどうやって採れるか、知っているかな?」。ここで最初の映像教材が登場。「ミツバチマリー」が花と自分たちの関係を説明します(映像1「花となかよしのいきものはなに?」)。ミツバチは花から蜜をもらっている。そして、ミツバチがいることが花たちの受粉の支えになっている・・・。映像はいきものの目線から、いきものたちが支え合って生きているということを伝えていきます。

 

(映像に真剣に見入る子どもたち)

(映像に真剣に見入る子どもたち)

映像はミツバチマリーからの「花と仲良しないきものは、他にはどんなのがいるかな?」という質問で終わりました。
これを受けて、石坂先生は「眼を閉じて、みんなの周りにある自然を想像してみて・・・」と子どもたちの想像力をかき立てるよう雰囲気をつくりだします。
子どもたちからは「昆虫」「蝶々」などと、たくさんのいきものたちの名前があがりました。「みんなの周りにはたくさんの自然があるんだね・・・」。ここで、再びミツバチマリーの映像に戻ります(映像2「もしミツバチがいなくなったら?」)。映像を通じて、子どもたちは、花の周りでたくさんのいきものたちが暮らしていること、そしてそれぞれが関係しあって生きていることを学びます。自然の美しい映像から、自然に対するどきどきした気持ち(センス・オブ・ワンダー)を思い出していくのです。

 

■理解と知識:いのちのつながりと、いま起きていること

次の段階では、そんないきものたちが消えていってしまっていること、「絶滅」について学んでいきます(映像3「絶滅ってなに?」)。最近はミツバチたちが世界中で急にいなくなっていると言われています。では、いきものたちがいなくなるとどうなってしまうのでしょう・・・。映像を通じて、子どもたちは動物園にいる多くのいきものが絶滅の危機にあること、世界では一日100種類ものいきものが絶滅しているということを学びます。
いきものたちがおかれた深刻な状況を知って、子どもたちの表情も真剣に。「絶滅しそうないきもののこと、みんなは知っているかな?」と先生が呼び掛けると「カワウソが絶滅しちゃったね」「和歌山県の動物園にいるパンダも絶滅危惧種だよね」という意見が共有されました。「生きものが絶滅していなくなっちゃうことは、私たちの生活にもとっても関係があるんだよ」。
先生はここで、いきものと食べものの関係を伝える映像を上映します(映像4:「いのちのつながりってなに?」)。みんなが普段食べているお米は田んぼから、パンの材料となる小麦は畑から出来ている。そして、そこにいきものたちがいることで、食べものが育ち、私たちがそれを食べることができる。いのちのつながりと自分たちの生活のつながりが見えてきました。

(映像にはいのちのつながりをわかりやすく紹介したイラスト)

(映像にはいのちのつながりをわかりやすく紹介したイラスト)

 

■解決と行動:自然を大切にするためにできることを考える

では、実際にいきものたちを守るためにはどうすればいいのでしょうか。解決策や具体的にできることを探ることを目指して、ここからは地域に根ざした視点から自然やいきものを考えていきます。田辺市で実施したこの授業では、子どもたちにとって身近な天神崎について「天神崎の自然を大切にする会」の玉井先生の取材映像(映像5「天神崎の自然はなぜ守られているの?」)をみながら、天神崎が何故大切にされ、どのように守られてきたかということを学びました。
まちの生活から広大な自然を感じることができる天神崎。38年前にそこに別荘がつくられるという計画ができあがると、地域の人たちは別荘がない方がいい、自然を守るために、お金を集めて森を買い取ろうという運動を起こしました。この運動はナショナル・トラスト運動として知られ、38年たった今も天神崎には変わらぬ自然が残っています。
「どうして、自然が守られて来たのかな・・・」。子どもたちは玉井先生のインタビューや、天神崎の自然に触れ合う人たちの映像(映像6「38年前と変わらない天神崎」)をみることを通じて、天神崎の自然を知ることが天神崎を大切に思う気持ちを育てていることを学びました。

(授業を通じて学んだこと、感じたことを書き留めます)

■ふりかえり、つぎのアクションへ

最後に教室のみんなで、自然を守るためにできることについて考えたことを発表しあいました。「自然を汚さないようにゴミをすてないようにしようと思います」「天神崎の素晴らしさをみんなに伝えていきたいと思いました」。子どもたちが自分の言葉でいきいきと答える姿がとても印象的だったと、石坂先生や小学校の先生方からも感想がありました。

2012-11-4

 

■映像教材・ICT を活用したプログラムの可能性

この日授業で使った映像は、専用のサーバーに設置し、自宅に帰ってから家族と一緒にみられるようにしました。子どもたちが学んだことを、家に帰って家族に伝える。学校での学びを、家庭での学習に結びつける。ICTを活用した教育が新たな学びの場の創造へとつながる可能性を感じます。映像は五感に働きかけるメディアです。ミツバチや鳥、虫たちの映像から、自分たちの身近にある自然を思い出したり、いつも目にしている風景の中にある「いのちのつながり」を発見したり。45分間という短い時間の中で「生物多様性」という大きなテーマや「ナショナル・トラスト」の意義を効果的に伝える上で「映像教材」は効果的な役割を果たしました。こういった映像教材をフィールドでの活動と連携させうまく取り入れることによって、子どもたちの想像力や個性を活かしながら、生物多様性や地域の自然の大切さを学んでゆくことができます。このプログラムはさまざまな地域や教育の場での応用が可能です。全国各地で展開し、他の地域にはどんな活動があるのか、どんなことが話題になるのか・・・。その多様性を共有することが、地域の特性に気づくあらたな学びへとつながるかもしれません。これからも是非、映像教材を活用した学びの場を地域の方や教育機関、自治体や企業など多くの方々と連携しながら全国各地で展開したいと考えています。

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今回、先生の役割を務められた三井住友信託銀行の石坂彩さんにインタビューしました。

◆授業をやってみてどうしたか?
普段は銀行で、こどもたちに関わることはなかなかないのですが、いろいろ準備を進めて、実際にこどもたちを前にしたら、テーマについて、短時間の間にすごく集中して、しっかり考えてくれました。映像をみて、自分の頭で考えたことを、授業の最後の自分の言葉でしっかりと発表してくれたことは私にとってもすごい驚きで、こどもたちもすごいパワーを持っていて、可能性は無限大なんだなと感じました。なかなかできない体験をさせていただいて嬉しかったですし、本当に達成感があってよかったと思います。

◆映像の効果は?
子どもたちはやっぱり集中してみますし、特に後半の自分たちがでている映像は、本当に自分のことのように見入っていて、かなり集中力を保つという意味でもすごく有効だと思いますし、視覚とか感覚でものごとを撮られるというのは、先生のお話をきくよりも効果的な手法で、それを授業に取り入れることで、より複合的な効果をうむのかなと思いました。

◆地域をテーマにして教育を行なったということに関しては?
本当に本心から海と山と、自然と・・・空気もすごく美味しいですし、そうした環境の中でこどもたちが勉強できるのが自然にあることは本当に素晴らしいことと思いますし、自然というのを再発見してもらって、自分たちが貴重な体験をしているということを子どもたちが感じてくれたらいいなと感じました。また来たいです。